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【ゾンビ植物】ナガエツルノゲイトウの侵略を食い止めろ! 農家を襲う「地球最悪」の雑草、その正体と最新対策
忍び寄る「緑のゾンビ」の恐怖
皆さんこんにちは、ストア&兼業農家のツチヤです。あなたの家の近くの川や、管理している田んぼに、白い小さな花を咲かせる水草が生えていませんか?もしそれが「ナガエツルノゲイトウ」だとしたら、早急な対応が必要です。
ナガエツルノゲイトウは、南米原産のヒユ科の植物です。日本では1989年に兵庫県で初めて定着が確認されましたが、現在では関東から沖縄まで広い範囲に侵略を進めています。
なぜ、この植物が「ゾンビ」と呼ばれるのでしょうか? それは、「茎や根のほんの小さな断片からでも再生し、増殖する」という、驚異的な生命力を持っているからです。
除草しようとして草刈り機で粉々にしても、その破片一つひとつが新たな個体として蘇り、かえって被害を拡大させてしまう――まさに、ホラー映画のゾンビのような性質を持っています。
本記事では、この厄介な特定外来生物に立ち向かうための知識と、最新の防除技術について詳しく解説していきます。

~なぜ「地球最悪」と呼ばれるのか?~
まずは、敵を知ることから始めましょう。ナガエツルノゲイトウがどのような植物で、なぜこれほどまでに恐れられているのか、その生態と特徴を深掘りします。
1-1. ナガエツルノゲイトウの生態と特徴
ナガエツルノゲイトウ(学名:Alternanthera philoxeroides)は、以下のような特徴を持つ多年生(たねんせい:数年にわたって生存する)の植物です。
- 見た目:茎はストローのように中が空洞で、水に浮きやすい構造をしています。葉は対生(茎の節に2枚向かい合ってつく)で、少し厚みがあり、先がやや尖っています。
- 花:4月から10月頃にかけて、葉の脇から長い柄(花柄)を伸ばし、直径1.5cmほどの白いボール状の花を咲かせます。
- 生息場所:水陸両用です。川やため池などの水辺はもちろん、乾燥に強いため、畑やあぜ道(畦畔)、道路脇などの陸地でも生育できます。
1-2. 驚異の「ゾンビ」能力:栄養繁殖
日本のナガエツルノゲイトウは種子(タネ)を作りません。では、どうやって増えるのでしょうか? 答えは「栄養繁殖(えいようはんしょく)」です。
これは、種子ではなく、茎や根などの体の一部から新しい個体を作る増殖方法です。ナガエツルノゲイトウの場合、茎や根のわずか数センチ、場合によっては数ミリの断片からでも、節があれば発根して再生します。
- 拡散力:茎はちぎれやすく、水に浮きます。大雨などでちぎれた茎が水流に乗って運ばれ、流れ着いた先で根を下ろして定着します。これが、水系を通じて爆発的に分布を広げる(侵略する)主な原因です。
- 再生力:刈り払機で粉砕すると、その破片が飛び散り、周囲にばら撒かれた破片から一斉に再生します。これが「駆除しようとして逆に増やしてしまう」という悲劇の元です。

1-3. 私たちの生活への影響(侵略の被害)
ナガエツルノゲイトウが繁殖すると、次のような深刻な被害が発生します。
- 農業被害:田んぼに入り込むと、稲に覆いかぶさるように成長し、光を遮って生育を阻害します。収穫時にはコンバインに絡まり、収穫不能になることもあります。
- 治水障害:水路や川をマット状に覆い尽くし、水の流れをせき止めます。大雨の際には排水ポンプに詰まり、洪水を引き起こすリスクがあります。
- 生態系への影響:水面を覆い尽くすことで水中の酸素を欠乏させ、魚や他の水生生物を死滅させる恐れがあります。また、在来の植物を駆逐してしまいます。
~最新の防除技術で勝つ~
「ゾンビ植物」と聞くと絶望的に感じるかもしれませんが、研究機関や自治体の努力により、効果的な対策(メリットのある手法)が確立されつつあります。ここでは、最新の成功事例と、正しい防除によるメリットを紹介します。
2-1. 【最新事例】科学の力で根絶を目指す「除草剤体系処理」
農研機構などの研究により、特定の除草剤を適切な時期に組み合わせて使う「体系処理」が、ナガエツルノゲイトウの防除に極めて有効であることが実証されました。これは日本雑草学会の技術賞を受賞するほどの成果です。
▼ 具体的な方法(水稲栽培の場合) これまでは「効く薬がない」と言われてきましたが、以下の成分を含む除草剤が有効であることが分かっています。
- 初期~中期:「ピラクロニル」を含む除草剤を使用。
- 中~後期:「フロルピラウキシフェンベンジル(通称:ロイヤント)」を含む除草剤を使用。
【メリット】 この体系処理を2年間継続することで、ナガエツルノゲイトウの地下部(根など)まで徹底的に叩くことができ、翌年以降の発生を劇的に減らすことができます。手作業での除去という重労働から解放され、収量確保につながるという大きなメリットがあります。
2-2. 【物理的対策】「陽熱処理法」で土ごと浄化
水路の工事などで掘り出した泥(浚渫泥土)にナガエツルノゲイトウが混ざっている場合、そのまま放置するとそこから再生してしまいます。そこで開発されたのが「陽熱(ようねつ)処理法」です。
▼ 方法 掘り出した泥を山積みにし、透明なビニールシートで密閉します。夏場(7~8月)の太陽熱を利用して内部の温度を上げ、蒸し焼き状態にします。
【メリット】
- 短期間で処理可能:従来、遮光シートで覆って枯らすには約2年かかっていましたが、陽熱処理なら2~3ヶ月(条件が良ければ1ヶ月)で死滅させることができます。
- コスト削減・再利用:短期間で処理が終わるため、場所の確保が容易で、処理後の土は安全に再利用できます。
2-3. 【協働事例】地域ぐるみで守る「拡散防止ネット」
千葉県の印旛沼流域や桑納川では、行政、研究者、市民ボランティアが連携した「協働駆除」が行われています。
▼ 工夫された対策 - 拡散防止:駆除作業を行う際、下流に「オイルフェンス」や「ネット」を張り、ちぎれた茎が流れ出さないようにしています。
- 手作業と機械の併用:大きな群落は重機で、細かい部分は人の手で丁寧に除去します。
【メリット】 地域全体で監視・駆除を行うことで、早期発見・早期対処が可能になります。また、正しい知識(ちぎれたら増えることなど)を共有することで、不適切な草刈りによる拡散を防ぐことができます。

~ゾンビとの戦いは続く~
有効な手段は見えてきましたが、ナガエツルノゲイトウとの戦いにはまだ課題も残されています。これからの展望と、私たちが守るべきルールについて解説します。
3-1. 最大の課題:コストと労力、そして「特定外来生物」の壁
課題①:完全駆除の難しさ ナガエツルノゲイトウの根は地中50cm以上も深く伸びることがあり、地上部だけを枯らしても、土の中の根が生きていればまた再生します。完全に根絶するには、数年単位での継続的な管理(モニタリング)が必要です。
課題②:法律による移動の禁止 ナガエツルノゲイトウは法律で「特定外来生物」に指定されています。これは、生きたままの運搬、保管、栽培が原則禁止されていることを意味します。
- やってはいけないこと:駆除したナガエツルノゲイトウを、生きたまま軽トラックに積んで別の場所に運ぶことは違法(懲役や罰金の対象)となる可能性があります。
- 正しい対処法:駆除した場所で天日干しにして完全に枯死させるか、腐らせてから処分する必要があります。または、事前に自治体や環境省の確認を受けた手順(防除の確認・認定など)に従って運搬する必要があります。
◦ ※地域住民やボランティアによる小規模な駆除で、事前に告知し、密閉して運ぶ場合は例外として認められるケースもありますが、必ず事前に自治体へ確認しましょう。
3-2. 環境への配慮と新たな技術
課題③:環境への負荷 除草剤は強力ですが、使いすぎれば周辺の生態系や水質への影響が懸念されます。特に水辺での使用は、農薬登録のあるものを慎重に選ぶ必要があります。
今後の展望
- 環境DNA技術の活用:水に含まれる生物のDNAを調べることで、目に見えない初期段階の侵入を検知する技術(環境DNA)の開発が進んでいます。これにより、「見つけてから対処」ではなく「入ってきた瞬間に叩く」ことが可能になるかもしれません。
- IoTカメラによる監視:広大な水域を人が監視するのは大変です。自動撮影カメラ(IoTカメラ)を使って遠隔監視し、増える前に駆除する「低密度管理」の実証も進められています(ボタンウキクサの事例など)。
3-3. 私たちにできること:早期発見・早期通報
ナガエツルノゲイトウ対策の鉄則は「早期発見・早期駆除」です。大群落になってからでは、重機を使っても取り除くのが困難になります。
見つけたら:自分で勝手に引き抜いたり、持ち帰ったりせず、すぐに最寄りの自治体(市町村役場や農政局、環境事務所)に連絡してください。
農機具の洗浄:トラクターなどの農機具に付着した泥の中に、ナガエツルノゲイトウの断片が混じっていることがあります。作業後は泥をよく落とし、他の田畑へ「ゾンビ」を持ち込まないようにしましょう。
まとめ
ナガエツルノゲイトウは、その驚異的な再生能力から「ゾンビ植物」とも呼ばれる、極めて危険な外来種です。農業への被害、洪水の誘発、生態系の破壊など、その影響は計り知れません。
しかし、恐れるだけでは解決しません。今回の記事のポイントを振り返りましょう。
- 敵を知る:茎の中が空洞で、白い球状の花が咲く水草です。
- 増やさない:草刈り機で粉砕するのはNG。断片から再生します。
- 最新技術で戦う:水稲栽培では有効な除草剤の体系処理が確立されています。浚渫土は陽熱処理で無害化できます。
- ルールを守る:生きたままの運搬は法律違反です。枯らしてから処分しましょう。
この「緑の侵略者」から日本の美しい水辺と農業を守るためには、農家の方だけでなく、私たち一人ひとりの監視の目が重要です。もし水辺で怪しい植物を見かけたら、すぐに専門機関へ相談しましょう。あなたのその行動が、地域の自然を守る大きな一歩になります。
※本記事の除草剤情報は執筆時点のものです。農薬を使用する際は、必ず最新の登録内容(適用作物、使用量、使用時期など)をラベルで確認し、正しく使用してください。
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