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マツダが描くモータースポーツと自動車の未来:実車から読み解く環境問題へのアプローチを知る
先日、マツダを愛する多くのファンが詰めかけ、熱狂と興奮に包まれた「MAZDA FAN FESTA 2026」の会場。数ある名車や歴代のレーシングカーが並ぶ広大なパドックにおいて、以前から気になっていた1台の車両があった。それこそが、現在スーパー耐久シリーズの「ST-Qクラス」に参戦し、業界内外から非常に高い関心と熱い視線を浴び続けているマツダの55号車、「MAZDA SPIRIT RACING 3 Future concept」である。
近年、自動車産業全体において地球環境の保護とカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)への対応が急務となっている。これは単に移動の手段としての自動車にとどまらず、モータースポーツという極限の闘いの場においても決して例外ではない。
持続可能な社会の構築とモータースポーツの両立に向けて、開発の現場もまた、かつてない大きな転換期を迎えているのである。そうした中、本稿で紹介する55号車は、単なる速さを競うための競技車両という枠を大きく超え、自動車メーカーが未来の技術を鍛え上げるための壮大な「走る実験室」として機能している。会場で実車が走行してる姿を見て、開発陣の熱量を感じ取った筆者が、同車が担う次世代技術の実証プラットフォームとしての意義と、そこに込められたマツダの哲学を徹底的に解説していく。
■ 内燃機関の存続をかけた挑戦:「次世代バイオディーゼル燃料」の採用
この55号車のベースとなっているのは、私たちが日常の街角で目にする市販車の「MAZDA3」である。流麗で美しいハッチバックのフォルムを保ちつつも、サーキットを戦い抜くためのアグレッシブなエアロパーツを纏ったその姿は、まさにレーシングカーそのもの。ただここまででは今までのレーシングカーと変わらない。では何が違うのかを解説していく。

まずは心臓部と呼ばれるパワーユニット(動力源)には、マツダが長年培ってきたディーゼル技術の結晶である、2.2リッター直列4気筒直噴ターボディーゼル「SKYACTIV-D 2.2」が搭載されている。
このエンジンの最大の特徴は、従来の化石燃料(軽油)を一切使用せず、次世代バイオディーゼル燃料(HVO:Hydrotreated Vegetable Oil=水素化植物油)を100%使用して駆動している点にある。廃食油や微細藻類油脂などを原料とするこの植物由来のバイオ燃料は、燃焼時にCO2の排出を伴うものの、原料となる植物が成長過程で光合成によって大気中のCO2を吸収しているため、全体として見ればCO2排出量は実質的にゼロ(カーボンニュートラル)とみなされる仕組みだ。
スーパー耐久シリーズのST-Qクラスは、日本の様々な自動車メーカーが開発中の未承認技術を実際のレースに投入し、評価・検証を行うための特殊なクラスである。年間スケジュールの中には24時間レースをするという、車にとって最も過酷なものも存在する。マツダはこの過酷な環境下でバイオディーゼル燃料の信頼性、耐久性、そして十分なパフォーマンスを発揮できるかを継続的に検証する実験を重ねている。
電気自動車(EV)へのシフトが声高に叫ばれる現代において、既存のインフラや内燃機関の技術を活かしながらカーボンニュートラルの実現を目指すという、極めて現実的かつ情熱的な選択肢がここにある。
■ 走るだけでCO2減少⁉:世界初「車載型CO2回収装置」の実装
さらに特筆すべきは、同車が単にカーボンニュートラル燃料で走るだけでなく、世界初とも言える「走りながら大気中のCO2を直接回収するシステム(Mazda Mobile Carbon Capture)」を実装していることだ。

このシステムは、フロント部分のインテークから大気中の空気を取り込み、走行中の排気ガスからゼオライト吸着剤を使ってCO2を取り出し、加熱処理を行って別の貯蔵タンクに濃縮CO2を送り込みCO2を吸着・分離する仕組みとなっている。
これまで、工場などの固定設備でCO2を回収する技術(DAC:Direct Air Capture)は存在したが、それを激しい加減速と振動を伴うレーシングカーに搭載し、走行状態のまま機能させるというのは前代未聞の試みであり、非常に高い技術力が求められる。ピットストップ時には、給油やタイヤ交換といった緊迫した通常のレースオペレーションと並行して、CO2をたっぷりと吸着したカートリッジの交換作業が実施される。
実車のシステムを目の前にすると、マツダがモータースポーツを真の「技術開発の最前線」として位置づけ、あくなき探求を続けている本気度が、ひしひしと肌で感じられた。
■ 視覚で伝える環境貢献:光によるステータス可視化
高度な技術が詰め込まれた55号車であるが、会場で筆者の目をさらに惹きつけたのが、CO2回収システムの稼働状況を視覚的にアピールするエクステリア(外観)のギミックである。
同車には、システムの状況を外部から直感的に確認できる以下のようなインジケーターが搭載されている。
・リアウインドウの各種ステート表示:リアウインドウ部分にはインジケーターが設けられている。ここでは「吸着(通常)」や「吸着(カーボンネガティブ一般ユース)」、および「脱離」といったシステムの状態がランプで示される。
・サイドステップの回収量表示:サイドステップ部分には回収量を示すLEDが内蔵されている。CO2が溜まっていくにつれて、LEDの光が赤から青へと変化していく仕組みとなっている。
これにより、ピットクルーだけでなく観客も、現在の車両がどのような環境アクションを行っているかという情報を瞬時に把握できる。 レーシングスピードで駆け抜けるマシンの足元が、空気の浄化度合いに合わせて青く輝いていく様は、非常に未来的で美しい光景である。単にブラックボックス化した環境デバイスを搭載するだけでなく、こうした「見せる演出」を取り入れる点に、環境技術をモータースポーツの魅力やエンターテインメントの一部として昇華させようとするマツダの姿勢が伺える。
■ 回収したCO2の行方:究極の循環型社会「カーボンリサイクル」のエコシステムへ

ここで最も重要なポイントは、過酷なレースを走り抜く中で捕集されたCO2が、単に廃棄されたり地中に埋められたりするわけではないという点である。マツダはこれを貴重な「資源」として再利用する「カーボンリサイクル」の壮大なエコシステム構築を視野に入れている。
回収されたCO2は、再生可能エネルギー由来の水素などと合成させることで、次世代のカーボンニュートラル燃料(e-fuel等の合成燃料)の原料として再生することが可能となる。つまり、レーシングカーが走ることで大気中から集めたCO2が、再び自動車を動かすためのクリーンなエネルギーへと生まれ変わるという、究極の循環(サーキュラーエコノミー)が成立するのだ。さらに、この技術が将来的に普及すれば、一般ユーザー向けの車両にも応用される日が来るかもしれない。
燃料化のみならず、農業や植物工場での光合成促進用途、あるいはプラスチックなどの化成品の原料として、異業種と連携した多角的な二次利用も計画されている。さらに、「クルマが走れば走るほど、大気が浄化され、全く新しい資源を生み出す」。これまでの自動車の常識を覆すような革新的な未来図が、この55号車で行われている壮大な実験の延長線上にはっきりと描かれているのである。
■ 総括:モータースポーツの熱狂とエンジンの鼓動を未来へ繋ぐために

「MAZDA SPIRIT RACING 3 Future concept」は、モータースポーツが持つ熱狂、人と機械が一体となる歓び、そして内燃機関特有の力強い鼓動を、未来の子供たちへ残すための、マツダの飽くなき技術的挑戦の結晶である。モータースポーツの楽しさと環境保護の両立という、かつては不可能と思われていた課題に対しても、果敢に挑み続けるマツダの開発陣の姿勢には感銘を受けるばかりだ。
また、実際にレースで走る「MAZDA SPIRIT RACING 3 Future concept」はスーパー耐久のオフィシャルYOUTUBEでもみることができるので、現地に行かなくてもマツダの挑戦を感じてほしい。
今回「MAZDA FAN FESTA 2026」という場で実車を間近にし、開発陣の熱意や現場の空気に直接触れたことで、その強い想いが筆者の胸にもより一層深く突き刺さった。サーキットを駆け抜ける美しいフォルムの内部で、着実に進化を遂げる驚異の環境技術。マツダが提示する全く新しいモータースポーツのあり方と、自動車産業が切り拓くべき未来の可能性について、今後も一人の車好きとして、そして技術の進化を愛する者として、高い期待と共に注視していきたい。
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