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日本の「コメ」に今、何が起きているのか?「コメ不足」の裏で進む、驚きの価格逆転と農家の悲鳴
1. 導入:食卓の主役を巡る「違和感」の正体
スーパーの米売り場を訪れた際、不思議な「違和感」を覚えたことはないでしょうか。「品不足で価格が高騰している」と騒がれた時期があったかと思えば、今度は新米が並び始め、一方で極端な安売りや、逆に据え置かれた高値が混在する奇妙な光景。
私たちは今、これまでの需給バランスの常識では測れない「コメの異変」の渦中にいます。記録的高騰を見せた令和7年(2025年)産米から一転し、最新の令和8年(2026年)産米では、生産現場が震撼するほどの急激な価格下落が起きているのです。この乱高下の裏側には、単なる豊作や不作では片付けられない、日本の食糧安全保障を揺るがす深刻な構造的欠陥が隠されています。
2. 衝撃の「4割減」:記録的高騰から急転直下する新米価格
わずか1年の間に、コメの取引価格は「天国から地獄」へと突き落とされたかのような変貌を遂げました。
前年となる令和7年産米は、需給の引き締まりを背景に、JA全農長野が提示したコシヒカリの概算金(農家への前払い金)が60kgあたり2万8240円という過去最高額を記録しました。しかし、最新の令和8年産米では、その指標が急落しています。
- JAしまね: コシヒカリの概算金を1万6000円に設定。前年の2万8400円から約4割(1万2400円)の大幅下落。
- JAえちご上越: コシヒカリの概算金を1万8500円と提示。これも前例のない4割減の水準。
- JAみやざき: 1万8000円を提示。前年比で1万4000円ものマイナス。
この衝撃的な下落について、JAしまねの竹下克美組合長は、記者会見で苦渋の表情を浮かべながら次のように述べています。
「生産農家の苦労を考えると断腸の思いの決断だ」

3. 「親不孝価格」の発生:新米が古米より安いという逆転現象
この混乱は、流通業界で「親不孝価格」と呼ばれる皮肉な現象を引き起こしました。本来、鮮度も価値も高いはずの新米が、在庫として残っている古米(前年産)よりも安く販売される価格逆転現象のことです。
埼玉県内のスーパーでの実例を見ると、その歪みが顕著です。
- 令和7年産(古米)の「新潟県産コシヒカリ」:3002円
- 令和8年産(新米)の「新潟県産なつひめ」:2678円
高値の時期に仕入れた古米を抱える流通側は赤字を避けるために値下げできず、一方で引き取り価格が暴落した新米が安く流入する。「子(新米)」が「親(古米)」の価値を損なうこの状況は、単に「安くて嬉しい」で済む話ではありません。急激な価格変動に市場の需給調整が追いつかず、流通現場が機能不全に陥っている象徴なのです。
4. 供給過剰のパラドックス:なぜ「コメ余り」が起きているのか
「コメが足りない」という半年前のイメージとは裏腹に、現在の市場データは正反対の「供給過剰」を示しています。令和8年6月末時点でのコメの民間在庫量は243万トンにまで膨らんでおり、需給は大幅に緩和しています。
なぜ、これほどのパラドックスが起きたのでしょうか。そこには政府の予測を狂わせた「負の連鎖」があります。
- 投機的動きと買い控え: 令和7年産の高騰は、実質的な不足以上に「投機的な動きや買い占め」によって煽られた側面がありました。結果として過剰な高値がつき、消費者の「コメ離れ」を招きました。
- 政府対応の裏目: 供給不足の懸念に慌てた政府が備蓄米を放出し、輸入米を流通させた結果、反動として在庫が積み上がりました。
- 需給予測の致命的なズレ: 消費の減退と在庫の積み上がりを正確に把握できず、供給過剰局面で新米が市場に投入される事態となりました。
5. 限界を超える農家:97.5%が実感する「コスト増」の正体
消費者が価格下落の恩恵を受ける一方で、生産現場では「作れば作るほど赤字」という壊滅的な事態に直面しています。
産直通販サイト「食べチョク」の調査によれば、97.5%の農家が生産コストの上昇を実感しています。農機具・修繕費(85.2%)、燃料費(82.7%)、肥料代(75.3%)と、あらゆる項目が跳ね上がっています。
ここで、経済的なリアリティを直視する必要があります。 現在のコメのコスト指標(玄米60kgあたり)は、約2万535円とされています。対して、JAしまねが提示した概算金は1万6000円。つまり、1袋(60kg)出荷するごとに4,535円もの赤字を農家が被る計算になります。
さらに深刻なのは、販売価格の乖離です。農家の約6割は、経営継続のために「5kgあたり3,000円〜4,000円」の小売価格が必要だと回答していますが、市場では既に2,600円台まで下落しています。農家が営農を維持し、次年度も作付けを可能にする「再生産価格」を、市場価格が大きく割り込んでしまっているのです。
「経営継続に強い不安を感じる」
アンケートに対し、4人に1人の農家がこう回答した事実は、日本の主食供給体制がいかに脆い足場の上に立っているかを物語っています。
6. 消えゆく田んぼ:加速する「離農」の懸念
価格暴落とコスト増の板挟みは、いよいよ「離農」という最悪の選択肢を生産者に突きつけています。JAえちご上越の羽深真一会長は、この緊迫感を次のように表現しています。
「コメの需給状況については、いまだかつてないほど厳しい状況。今年の動向によっては、来年もさらに厳しいのでは」
現場をさらに追い詰めているのが、先行き不透明なコスト増です。JA全農は11月供給の「秋肥」を14.5%値上げすると発表しました。JAえちご上越などは農家を守るために秋の価格据え置きを決定しましたが、来年3月以降の「春肥」については「値上げは避けられない」と認めています。
赤字を理由に作付けを縮小し、あるいは長年守ってきた田んぼを手放す。一度失われた「耕して天に至る」風景や熟練の技術は、二度と取り戻すことはできません。

7. 結びに:私たちが選ぶ「一膳」の未来
現在、政府は市場価格の調整を目指し、放出した備蓄米を買い戻す検討に入っています。しかし、その「さじ加減」一つで市場が再び混乱するリスクも孕んでいます。
私たちは、スーパーで安売りされるコメを歓迎するだけで良いのでしょうか。その安さの裏側に、農家1人あたり、あるいは1袋あたり数千円の「持ち出し」が存在するとしたら。私たちが「安さ」という刹那的な恩恵を享受し続けることは、巡り巡って日本の風景を壊し、食の未来を売り渡す行為に繋がりかねません。
安さという恩恵の裏側で、私たちは何を失おうとしているのでしょうか?
農家が「再生産」を続けられる適正な価格で、私たちはコメを買い、食べること。それこそが、生産者の生活を守り、引いては私たちの食卓の永続性を守る唯一の「投資」です。今日、あなたが選ぶ「一膳」の価値を、今一度問い直してみてはいかがでしょうか。
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